その「武器」を、組織の「宝物」に変えるために。

ステージを耕すひと

中堅IT企業でPMを務める美咲は、チームの若手、河野のチャット画面を見て、ふっと遠い目をした。 『美咲さん、私は睡眠指導の資格も取って、チームのパフォーマンスを上げようとしているんです。なのに、なぜ上層部は誰も話を聞いてくれないんでしょう。私の専門性を軽視しているとしか思えません。』

かつての自分を見ているようだった。 美咲も数年前、キャリアコンサルタントの資格を取りたての頃、似たような怒りを抱えていた。「この知識があれば、会社はもっと良くなるのに。認めないのは会社の怠慢だ」と。

当時の上司――いつも飄々としている、通称「おじさん部長」は、憤る美咲にこう言った。 「美咲さん、君の持っているその綺麗な剣、いきなり抜いたら周りは怖がっちゃうよ。まずは、その剣を使って、みんなの通り道の雑草を刈ることから始めてごらん」

「雑草……ですか?」

「そう。新しいことをやるってのは、周りにとっては『新しい面倒事』でもあるんだ。会場を借りて、人を集めて、成果を証明して……そのコストを誰かに払わせているうちは、誰も君にステージを差し出さない。まずは、一人で勝手に、誰の邪魔もせずにやってごらん。みんなが『あれ、最近通りやすくなったな』って気づくまでね」

美咲は、やり方を変えた。 正式な制度化を叫ぶのをやめ、まずは昼休みの自由参加の勉強会から始めた。資料のコピーも、会議室の片付けも、すべて一人でやった。業務に支障が出ないよう、誰よりも高い密度で自分の本業をこなし、「文句のつけようのない実績」を盾にした。

一年後。美咲の勉強会から離職率が下がったというデータが出たとき、会社は初めて「美咲さんのやり方で、全社展開してほしい」と頭を下げてきた。

「河野くん」 美咲はキーボードを叩く。

「専門性は、認めさせるものじゃなくて、誰かの役に立って初めて認められちゃうものなのよ。まずは、私があなたの最初のクライアントになろうか?」

画面越しに、若手の迷いが少しだけ晴れるのを祈りながら、美咲はエンターキーを押した。


【解説】あなたの努力が、一番いい形で実るように

せっかく大変な思いをして資格やスキルを身につけたのに、それが周囲に届かないのは、本当に切ないことですよね。あなたの「もっと組織を良くしたい」という純粋な情熱は、何物にも代えがたい宝物です。

でも、組織という大きな船を動かすには、ちょっとした「お作法」があるんです。

1. 「味方」を増やすプロセスを大切に

いきなり正論や資格を振りかざすと、相手は「何か押し付けられるのでは?」と身構えてしまいます。まずは目の前の小さな困りごとを助け、「この人と仕事をしてよかった」と思ってもらうことから始めてみませんか。

2. 周りの負担を「ゼロ」にする工夫

新しい取り組みは、周囲に「手間」というコストを強います。だからこそ、最初は「自分が全部やります。場所だけ貸してください」という姿勢が重要です。あなたの「ひたむきな準備」こそが、人の心を動かす一番のエネルギーになります。

3. 「背中」で語る信頼の積み上げ

実績の積み上げには、地道な量と時間が必要です。でも、その時間は決して無駄にはなりません。一歩ずつ、信頼の貯金をしていきましょう。あなたが黙々と雑草を刈る姿を、誰かが必ず見ています。


【明日へのワーク】自分のステージを耕すための3つの問い

  1. 「勝手に、小さく」始められることは何ですか? 大掛かりな承認を得る前に、自分の手の届く範囲で、まずは一人で試せる最小単位のアクションを考えてみましょう。
  2. 周りの「面倒くさい」を先回りして解消していますか? 自分の提案を通すために、誰かに準備や手配の苦労をさせていないか、一度振り返ってみましょう。
  3. 今の本業で「圧倒的な信頼」を積み上げていますか? 新しいことを言う前に、今の持ち場で「あの人に任せれば安心だ」と思われる実績を一つずつ積み重ねていきましょう。

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